キタヒさんのゴースト、ポルターガイストで二次創作させていただきました。 ありがとうございます。 シェリルがランダムトークでカラオケに行きたいって言ってたものですから。 じゃあ行かせてあげようということで、小説で書いてみました。 二次創作って初めてやったので、至らぬ点があるかもしれません。 ちょっと設定が違っていたり、キャラのイメージが変わっているかもしれないので、苦手な方は注意してください。 この話では、シェリルとミィは普通の人には見えない。 ノアとユウは普通の人にも見えるという設定で書いています。 ---------------------------------------------------------------------------- 「カラオケ行きたーい」 最初にそう言い出したのは黒い服に身を包んだ少女だった。 「……無理だって」 「やだー! 行きたい行きたーい!」 提案を真っ先に否定されて、少女は頬をふくらませた。 白いフリルが際立つ黒いスカートの端からのびる足、には見えないがその位置にある水色の何かがぶんぶんとまわっていた。 不満を小さな体で精一杯に表現してるさまは可愛らしい。 「行っても私たちの姿は店員には見えないじゃない。幽霊なんだから」 「うぅ……、おねがい……みーちゅわあぁん……」 その姿でふわふわと浮かんでいる幽霊の少女、シェリルは目をきらきらと光らせて訴えた。 「そんな目をするな、気持ち悪い。あとみーちゃん言うな」 ミィはそう言い返してため息をついた。 こういう目をするときのシェリルは何を言っても聞いてくれないことが多い。 今日はどうやって無茶な願いをやり過ごそうかと、幼い姿のシェリルよりもさらに小さな手で頭を抱えた。 ミィはかなり小柄な体だ。 ショーケースのウィンドウに並んでいても、さりとて変ではないだろう。 その体型故に、ミィは実生活でも人一倍に苦労し、本人もそれを気にしている。 そしてそれをいつもからかう少女は今日もここにきていた――そう、天使のノアだ。 「仮にカラオケに行ったとしても、こんな人形のように小さい体でマイク持てますか?」 ノアはミィの服についている羽の飾りをひょいとつかんだ。 「人形って言うな! 放せ、この墜落天使!」 ミィはつかまれたまま暴れだし、ノアの頭に浮かんでいた天使の輪を蹴飛ばした。 輪はあさっての方向へと飛んでいき、しげみに落ちた音を合図のゴングに、二人はいつものように喧嘩を始めたのだった。 「け、けんかはだめだよ、ふたりともー!」 シェリルが慌ててとめようとしたが、制止の声は二人の耳には届かないようだ。 二人とも乙女であるにもかかわらず、なりふり構わず殴りかかり、それを見てあたふたするシェリル。 ノアと同じくいつものようにシェリルに会いにくるユウには、当然ながら見慣れた光景だった。 「はー……。相変わらず凄まじいねぇ……。女はこわいこわい」 「ユウちゃんも女の子だよね? 言ってないでふたりをとめてー!」 シェリルがそういうとユウはピンク色のツインテールを揺らし、やれやれといった様子で頭を少しかいた。 「はいはーい、けんかはそこまでー!」 ユウは二人の間に割って入り、二人を引きはがした。 距離を置いてもノアはミィの服をつかみ、ミィはノアの手をひっかいていた。 「邪魔だ! 吸血ポンプ!」 「吸血鬼がサバよんでピンクの服着るなんて恥ずかしくないんですか? なんていやらしいのですか!」 ユウにまでとばっちりがくる有様だ。 しかも一方からはひどい言われようだ。 しかしユウは引きつった笑顔でそれを受け流して言った。 「あんたたちさあ、いつもいつも恥ずかしくないわけ? シェリルが見てるんだよ?」 ユウにそうなだめられて二人ははっとなった。 二人はシェリルに対してそれぞれ特別な思いがあるからだ。 そのことを本人が気づいているかどうかは定かではないが、彼女の名前を出されると二人は嘘のように落ち着いた。 その場が落ち着いただけで、ミィとノアの間には埋められないほどに深い深い溝があるのに変わりはないのだが。 ミィはふんと鼻をならし、ノアは天使の輪を頭に戻して、別々の方向を向いた。 「……で、えっと、シェリルはカラオケ行きたいんだっけ?」 「え、あ、うん!」 シェリルは思い出したようにうなづいた。 「幽霊なんだから黙って入っちゃえば? どうせ見られないよ」 ユウがイタズラっぽく笑う。 「「そんなことシェリルにさせない!」」 ミィとノアの声が重なる。 シェリルとユウは目をぱちくりさせた。 「……二人とも変なところで真面目だねぇ」 「息ぴったりだし、いいコンビだよね」 「「誰がこいつなんかと!」」 再び二人は同時に言った。 ユウがあきれたが、シェリルは嬉しそうに笑った。 二人はというと舌打ちをしてまたも目をそらした。 「じゃあ、たまには私が一肌脱ぎますか!」 「脱ぐ……? ユウさん、露出の趣味が? はっ……それとも体で……? いやいやだめですよユウさん! 腐っても鯛、あなたは小学生ですー!」 「な、なんかやけに鼻につく言い方ね……。って何よ! あんたじゃないんだからそんなことしないわよ!」 「失礼な! 私だってそんなことしませんよ!」 「お前らそういうことをシェリルの前で言うな!」 ミィが怒鳴った。 その傍らでシェリルはよくわからないような表情で見ていた。 ノアは半ば女の子同士とは思えないような内容の話を終わらせて、ユウはこほんと咳払いをした。 「と、とにかく。私がカラオケ連れてってあげるって言ってんの。それなら問題ないでしょ?」 「ああ……、ユウなら店員にも見えるから……」 ミィが納得して言った。 「あと、ノアにも手伝ってもらうからね」 「私もですか……?」 「そっ、店員さんもあんたなら見えるでしょ?」 ノアは少し考えてからうなづいた。 「でも私は遠慮したいです……、人形さんもいますし」 「あんた、私を一人でカラオケに行く寂しい小学生女児にしたいわけ? あとミィに人形って言わないで、また喧嘩になるから」 ユウはまた飛びかかろうとしたミィをおさえる。 (それにさ、ノア……) ユウがノアの耳元で何かをささやく。 ノアははじめはそれを黙って聞いていたが、じょじょに頬が赤くなり、しまいには……。 「さあ! 何をしているんですか、皆さん! 早くカラオケに行きましょう!」 と言って走り出したのだから、一番驚いたのがミィだったのは言うまでもない。 「ユウ、何を言ったわけ?」 「ふふーん、さあね〜」 ユウは返事をはぐらかしてノアの後を追った。 「なんか不安……」 一向に気が進まないミィの手を取って、シェリルが言った。 「いこっ、みーちゃん! きっと楽しいよ!」 ミィはその無邪気な笑顔に、ふっと微笑みで返した。 「今日だけよ、まったく……」 そう言いながらもシェリルに連れられて、ノアとユウの後に続いた。 ---------------------------------------------------------------------------- 「さー、最初は誰が歌う?」 「はいはーい! 私が一番歌いまーす!」 ユウの問いかけにシェリルが元気よく答えた。 選曲用の機械に電波を送って(?)器用に操作し、好きな曲を探しはじめる。 「まあ、出オチにならないような歌を歌いなさいよ?」 「へ、変な歌は歌わないよ。というか知らないよ!」 「そうね、ノアじゃないんだから。大丈夫よね……」 「どういう意味ですか」 ミィがなんでもないとごまかすと、ノアはむっとしたが今はそれ以上の喧嘩には発展せずに終わった。 ユウが机の上に荷物を重ねて、その上に部屋に用意されていたマイクを置いた。 シェリルとミィは触れないので、マイクスタンドの代わりだ。 「えっと……、じゃあこれ!」 シェリルが曲を選ぶと、カラオケの映像用のテレビに曲名が表示された。 すぐにイントロが流れると、シェリルは歌い始めた。 子供向けのアニメ番組のオープニングテーマのようだ。 「シェリルにしては妥当ね……」 「かわいい曲ですね……、シェリルさんらしい」 シェリルは夢中になって歌っていた。 サビでは振り付けを入れてみたり、ポーズをとってみたりと、幽霊には思えないぐらい活き活きとした姿だった。 ミィとノアも心なしか笑っていた。 普段とは違った二人の様子に、ユウは驚きながらも手拍子でリズムをとっていた。 曲が終わるとシェリルは画面に見入っていた。 採点の機能をオンにしていたらしい、シェリルの歌の点数は半分より上ぐらいだ。 「あれ、もうちょっといけると思ったのにー……」 「ちょっと元気出しすぎね。もう少し落ち着いたほうがいいんじゃない?」 「うん!」 ミィのアドバイスをちゃんと聞いているのかどうかわからない返事をして、早くも次の曲を探しにかかっていた。 ノアもそれなりに歌は知っているようで、グループ名で調べたりしている。 そこでユウがマイクを持って立ち上がった。 「じゃあ次は私ね! 歌姫と呼ばれた私の実力を見せてあげる!」 そういうと同時に、ユウの選んだ曲のイントロが流れはじめた。 「マイマイク持参ですか……、どれだけカラオケ好きなんですか」 「自慢じゃないけど、マイマイクは百八本あるわ!」 「……煩悩の数ですね」 「あんたに言われたくない!」 ユウはそう言い返してから歌い始めた。 「あ、この曲知ってる! いい歌だよね!」 「ちょっと古いけど、人気がある曲ね」 独特なリズムの曲だ。 男性が歌っている曲なので、ユウも少し声の調子を下げながらも音を外さずに歌っていた。 「なるほど、歌姫を自称するだけのことはありますね……」 「自称じゃなくて呼ばれたって言ってるし」 感想を言い合っているミィとノアを背後に、シェリルはタンバリンを振った。 「いぇーい! ユウちゃんふぉーえばー!」 エールを送るシェリルにユウはウィンクして笑った。 しばらくして、ユウの歌が終わると次はミィの番だった。 少し行儀が悪いが、ミィは備え付けのテーブルに乗って、マイクを立てて歌いだした。 最初のほうはテンポよく歌ってきたが、曲が盛り上がるにつれてミィは顔を真っ赤にして、うろたえながら歌詞を追った。 「あ、あ、あ……、愛してる〜……」 長い年月の愛を歌った歌詞のようだ。 一時はテレビのコマーシャルでも使われていた曲なので、三人もよく知っている。 ミィがそのコマーシャルを見るたびに頬を赤らめるのを、シェリルは不思議そうに見ていたのだった。 (……そういうことですか。それなら私だって) ノアはミィの心の内をすぐに見抜いた。 それからは選曲に悩んでいた彼女も、ミィに対抗するような曲を探そうとひそかに決めた。 「ああ、恥ずかしかった……、一回休ませて……」 歌い終わるころにはミィは、頭から煙が立ち上るほどにのぼせていた。 「みーちゃんかわいかったよー!」 とシェリルが言って、ミィを抱えた。 ミィはぶつぶつと文句を言いながらも、今日は彼女に身を預けることにしたのだった。 「さて、最後は私ですね……」 ノアが立ち上がった。 緊張してマイクを握り締めている。 「ノアは何を歌うの? ぜんぜん想像できないんだけど……」 ユウがそう言い終わらないうちに、ノアの選んだ曲が始まった。 そして、テレビには映像が……。 次の瞬間、その場が凍りついた。 これまでの楽しげな雰囲気など、万力をはるかに上回る力で打ち砕かれた。 画面には奇抜な服装をした女性が座っている。 周りに置かれた小道具はロウソクに、鎖に、暗い色をした衣装の西洋の人形。 天井からはミラーボールがぶらさがり、反射した光が壁一面にピンク色を塗りつける。 そして、暗い曲調の音楽がスピーカーから奏でられ、部屋に響いた。 ---------------------------------------------------------------------------- ノアが歌い終わるころには、三人は沈んでいた。 ユウは頭を抱えてテーブルに突っ伏し、ミィは開いた口がふさがらず、シェリルは笑顔のままで固まっていた。 その様子には気づかないノアは、採点を待っていた。 画面に並んだのはパーフェクトの文字、点数は……百点。 「私が、ノアに、しかもこんな歌に点数で負けるなんて……、私が……」 ユウが落胆していた。 ここまでしおれている姿を見たのはシェリルにとってはじめての出来事だった。 壁際に移動して座り込んだユウの肩を、ミィが優しくたたいているのを見てノアが言った。 「ユウさん、どうしたんですか?」 「なんでもない……。次いって次……」 「……シェリル、歌っていいわよ」 「いいの? 次は何がいいかな……」 ノアが歌い始める前に、ミィはシェリルにゆずることにした。 いずれにせよ、ユウは落ち込んでおり、ミィもまた歌う気にはなれなかったので、シェリルに順番が回っていただろう。 「じゃあ今度はエンディング歌うね!」 シェリルはそう言ってポーズをとった。 どうやら振り付けがあるらしく、曲が流れ出すとシェリルは歌にあわせてダンスをはじめた。 跳んで、回って、腕を振る。 シェリルの歌もダンスもなかなか上手かった。 テレビの前で何度も練習していた成果だろう。 ミィはそれを見て子供だと茶化したが、今回はそれに救われた思いだった。 「ああ、癒される……」 「これが本物の天使……」 「あっ、あと少しでスカートの中が。お、おしいっ……」 一人だけ場違いなことを言うノアを、二人は見て見ぬ振りをすることに決めた。 そのあとも順番に歌は続いた。 シェリルはアニメの歌が多く、ユウとミィは流行にあわせた歌や好きな曲、ノアもついには三人に合わせた歌をしぶしぶ選んでいた。 時間はあっという間に進み、そろそろ知っている曲がなくなってくると、シェリルが何かひらめいた。 「ねえ、誰か一緒にデュエット歌おうよ」 その言葉に、三人は雷に打たれたような衝撃を受けた。 誰もが目を開いて沈黙した。 (すっかり忘れてましたが……。ユウさんの言うとおり、これはチャンス!) シェリルをじっと見つめるノアを、さらにミィがにらんでいた。 (それが目的か……! こいつに歌わせるわけにはいかない……) ユウはいまさら後悔した。 (シェリルをデュエットに誘えば、うまく仲良くなれるかもよ、なんて言うんじゃなかった……) そうでもしないと、ノアの姿はここにはなかっただろう。 ユウはシェリルがみんなで歌いたかったと言うと予想してたので、なんとしてでもノアも連れてきたかったのだった。 しかし、それが裏目に出てしまうとは思ってもいなかった。 ユウ自身もあのように言ったことを忘れていたので、シェリルがこの引き金をひいたときの後悔はひとしお大きかった。 (あたしが歌ったらノアに悪いしなあ……、どうしよう……) ユウはちらりと二人の様子を見た。 黙ったままだが、どことなく張りつめた空気が漂っている。 (私が歌うと言ったら人形さんに阻止される。人形さんが歌うと言ったら私が止めるしか……) (私は別に歌えなくてもいいけれど、いや、それも残念だけど、シェリルとこいつが歌うのだけは邪魔しないと……) 二人はにらみ合っているわけでもないのに、お互いにけん制しあう奇妙な対立の構図がそこにあった。 (ユウさんは歌わない。シェリルと一緒に歌うのを提案したのはユウさんなんですから……) (ユウが歌えば自然に終わるけど……。あの時言ってたのはこのことだったんだ、ユウは歌いにくいはず……。どうしたら……) ユウはシェリルを見た。 誰も返事をしないのを不思議に思っているようだ。 シェリルは困った表情を浮かべてこちらを見つめていた。 「その、嫌ならいいんだけど……」 「あー、そういうわけじゃなくて、シェリルちょっと待って」 「え、でも……」 シェリルが何か言いかけたが、ユウはそれに気づかないまま考え始めた。 (ミィもノアも、多分このまま。あたしが歌うか歌わないかにかかってるんだ……) 二人がユウを見つめている。 今のユウにはシェリルにまで見られているような気がした。 いや、シェリルと目があった。 まだか、まだかと催促する声が聞こえてきそうなぐらい、真っ直ぐな視線はユウの目を通った。 「あ、あたしは……」 ちょうどそのとき、部屋の壁に設けられた電話機が鳴った。 ユウはその音に飛び上がったが、すぐに受話器を取って答えた。 「も、ももも、もしもし!?」 突然のことに動揺していたので声が震えたが、返ってきた声は事務的だった。 『お時間、あと少しです。延長されますか?』 「……はい? じ、時間……?」 ユウは素っ頓狂な声をあげた。 そうだ、時間だった。 店員には彼女たちは小学生としか見えていないので、夕方までが時間の制限だった。 ユウが携帯で確認するとすでに六時の数分前だった。 (た、たすかったあ〜……) とユウは胸をなでおろした。 そのあとのユウは適当な言葉を返して電話を切った。 ---------------------------------------------------------------------------- 「二名様、ドリンクバーで、その他料理なども含めて……」 店員がレジを打ち始めた。 いつもこのカラオケ店に来るユウにとってはカウンターでのやり取りは珍しくない。 それが特別に見えたのは、後にも先にもこの日だけだった。 (あたし吸血鬼だけど、今なら神様信じるわー……) などといらぬことを考えながら精算を待っていたので、膨れ上がった金額を聞き逃してしまっていた。 「あ、あのお客様? お代は合計一万八千七百円になります、が……」 「はい! いちまん……、はっ、せん……?」 店員まで苦笑いをしながら言うのだから、よっぽどなのだろう。 理由を尋ねると、ユウはまた驚いた。 「お料理が、ケーキにパフェにフライドポテトとサラダ。ピザとラーメンに……、その他たくさんの注文をいただきましたが……」 「…………」 ユウは何も食べてはいない。 そういえば、自分が歌っている間にみんなが食べていたような覚えがあった。 ユウはノアをにらんだ。 ノアはミィを見た。 ミィはシェリルを見て、シェリルは……。 「ごちそうさま、ユウちゃん! またおごってね!」 満面の笑みを浮かべてそう言った。 「あ、あんたらはー!」 ユウの叫び声は、茜色に染まった空高くまで響いていた。 ---------------------------------------------------------------------------- 帰り道、四人の少女たちは思い思いのままにカラオケの感想を言い合いながら歩いていた。 「みーちゃん、楽しかったね!」 「たまにはこういうのも悪くないわ」 「料理もなかなかおいしかったです」 「お小遣いが……、お小遣いがぁ……」 ピンク色の布地の、軽くなった財布を手にとぼとぼと歩くユウの肩を、ノアがぽんぽんとたたいた。 「お金は無駄になってません。ユウさんは私たちの笑顔を買ってくれたんです」 「限度ってものをあんたらは知らないわけ!?」 「笑顔の価値に上限はないと思います……」 「やかましいわっ!」 耳をふさいで聞こえない振りをするノア。 それでもユウはまだまだ抗議の声をあげる。 「デュエット、結局できなかったわね……」 ユウを尻目にミィがつぶやいた。 「いろいろあって時間がなくなっちゃったからねー……」 「そうですねー……」 そこでユウは思い出して言った。 「元はと言えば、シェリル! あんたがカラオケ行きたいって言い出したから!」 「だってユウちゃんおごってくれるって……」 「言ってない! それに私だけ何も食べてない! 三人で食べた分のお金返して!」 「わ、わたしお金持ってないよ〜……」 「私も」 「同じく」 口々にそういうので、ユウは目をギラギラと光らせる。 年頃の少女には似つかわしくない、大きくてするどい牙が、桜色で艶のある唇の隙間から生えてきて―― 「代わりにシェリルの血をよこせええええ!」 ユウがシェリルに飛びかかる。 「いやああ!」 「よこせえええええええええ!」 「いやああぁぁ……!」 逃げ出したシェリルをユウが追った。 そうはいくかとノアがさらに追い、遅れてミィが続いていった。 不思議な幽霊を先頭にして、吸血鬼と天使、小さな幽霊の追いかけっこが始まったのだった。