またもや、ポルターガイストで二次創作させていただきました。 ありがとうございます。 やっぱり、設定が違っていたり、キャラのイメージが変わっているかもしれないので、そのあたりは注意してください。 作中に出てくる「あいつ」「あの人」はユーザさんのことです。 これは書き方の問題でミィの視点からの話になります。 ---------------------------------------------------------------------------- ある日の昼下がりのこと。 シェリルはあいつと街に出かけていった。 「よりにもよって、人形さんまで置いていくなんて……」 目の前に立っている天使がそう言った。 手で口元を隠しながら嫌な笑いを浮かべて、私を見ている。 「ひょっとして、髪を引っ張ったりするから愛想尽かしたのかもしれませんね。ププッ、ざまあないです人形さん」 自分の非が思い当たらないわけではない。 しかし、それをこのように言われては、腹の虫は治まらない。 それが宿敵であればなおさらだ。 だから、私はその天使に、ノアにこう言い返してやった。 「同じように取り残されたあんたに言われたくはないわね。この堕天使が」 どうやら癪に障ったらしい。 ノアが沈黙してこちらをにらみつけてきたので、私も負けじと冷たい視線をぶつけてやった。 すでに一触即発の状況だ。 例えるなら、そう、西部劇の一騎打ちのような、張り詰めた空気が漂っていたと思う。 「あんたら、毎日毎日よく飽きないわねー……」 そう言って、私たちの間に割って入ったのはピンクがトレードカラーの少女だった。 幽霊であるはずのシェリルの血を飲みたがっている変り種の吸血鬼、それがこのユウだ。 「あ、でも、喧嘩するほど仲がいいんだよね!」 ユウはポンと手を叩いて言った。 「それが適用されるのはごく一部の例外だけなのよ?」 私はため息をついた。 ノアも気勢をそがれたようで、私の言葉に力なく頷いた。 この点ではお互いの意見が同じであるあたり、本当に私たちは似たもの同士なのかもしれない。 そう思うと、私は二回目のため息を出さずにはいられなかった。 「……本当に、なにがあったんでしょうね。シェリルさん」 ノアが呟いた。 考えてみれば妙な話だ。 いつもなら、誰かが必ずシェリルの隣にいる。 それは、時にはノアであったり、ユウであったり、あるいは貞子さんや口裂け女さんといったお化けの友達。 そして、シェリルと同じ幽霊のミィ。……そう、私だ。 しかし、今日は違う。 隣を歩いているのは人間のあいつだろう。 別にあいつを疑っているわけではない。 もう何度も話したりして、友達と言えるまで打ち解けた仲ではある。 それでも、シェリルが私たちに何も言わないで出かけてしまったことが心配で仕方なかった。 今までもそんなことはなかったはずなのだが。 そんなことを考えていて、いつの間にか下を向いていた。 すると、自分の体が見えた。 認めたくはないが、小さな体だ。 大切な親友に置いていかれた小さな小さな体が、ほんの少しだけにじんで見えた。 「…………そんなに気になるなら、見にいってみる?」 私は目を服の袖でこすって、顔を上げる。 唐突にそんなことを言ったユウは、いつものように私とノアをからかうようなものではない、優しい笑みを浮かべていた。 「こんなところで眉間にしわをよせていては、くしゃくしゃの人形さんみたいになりますからね。人形さん」 ノアもそれに同意した。 そして、口では私の悪口を言いながらも、不安の入り混じった瞳で、私を急かした。 「うるさい、エセ天使」 私は苦笑いでそう言い返すと、不敵に笑ってやった。 「そうと決まれば早速出発よ! 私の後に続け〜!」 ユウが歩き出した。 私とノアはその言葉に不満を言いつつ、シェリルが向かった街を目指した。 ---------------------------------------------------------------------------- 街に着くと、すぐにシェリルとあいつが見つかった。 とは言うものの、幽霊のシェリルは普通の人には見えていないはずなので、傍目にはあいつ一人で歩いているように見えるが。 私たちは二人に見つからないように注意しながら追いかけた。 しばらく歩いて、二人が急に立ち止まったので、私たちは物陰に隠れて様子を見ることにした。 どうやら何かのお店のウィンドウを見ているらしい。 ブティックやアクセサリーショップ、洋菓子店などさまざま立ち並ぶ繁華街なので、いろいろ目移りするものはあるだろう。 それにしても、その繁華街に来てまで、なぜ私たちは電柱の陰に隠れているのだろう。 上からノア、ユウ、私の順番で顔だけ出しているのだが、通りすがりの人間たちはそれを見て何事かと驚いていた。 …………私が聞きたいぐらいだ。これで隠れたと言えるのだろうか? 「あれ、何のお店だと思う?」 「シェリルさんのことですから、お菓子屋さんとかだと思います。ほら、だらけた笑顔でよだれたらしてます」 「……シェリル、もう少ししゃんとしなさい」 二人が再び歩き出したので、私たちは雑談を終えて、再び後を追うことにした。 人ごみの中をかき分けて進んでいく。 少しでも目を離せばすぐに見失ってしまいそうだ。 その上、二人はあっちこっちを見て回ったり、たまたま見つけた猫を追いかけたりするので、私たちは必死についていくしかなかった。 シェリルには、もう少し落ち着きを持ってもらいたいものだ。 「あんまり落ち着いたシェリルもちょっと……」 そうは言ったものの、ユウの意見も否定できなかったのが少し心苦しいところだ。 「また何かのお店の前で止まりましたよ」 「あれは、服屋さんみたいだね」 華やかな服装をまとうマネキンに、シェリルは目をきらきらと輝かせたり、かと思えばマネキンの足元に並んだ靴を見て落ち込んだりしている。 自分の水色の変な足を見て恨めしそうにしていて、さすがにちょっと可哀想だとは思った。 思ったはいいが、仮にオーダーしてもあの足で履ける靴があるだろうか。 そんなことは考えるのをやめて、再び街の散策を始めた二人についていくことにする。 「あ、見てくださいよ、人形さん。マンホールがあります。言葉の響きがいやらしいですよね、マンのホールだなんて」 「あんたはちょっと黙ってなさい。あと人形って言うな」 ノアがまた余計なことを言い出した。 こんなのをいちいち相手をしていたら二人を見失ってしまうので、私は適当にあしらうことにした。 そのあとも二人を陰から見ていたが、何かを買うわけでもなければ、お店に入る様子も見せなかった。 シェリルに何の意図があるのかわからないままだ。 私たちは記憶を思い起こして、手がかりを探すことにした。 昨日はシェリルに勉強を教えていた。 科目は、あの子が苦手としている数学。 勉強が終わったらゲームしてもいいと約束をして、珍しく一人で問題を解いたことを思い出した。 しかし、それが今日のことと関係があるとは思えない。 「エックスに値を挿入……、いやなんでもないです」 「…………あんた、なんでもそれに結びつけるわけ?」 ユウがあきれていた。 シェリルがこの話を聞いていなくてよかったと心から思う。 ノアがいるときに保健体育は教えられない。 そのついでに間違った知識を覚えてしまうのは明らかだからだ。 話を戻そう。 一昨日は確か、シェリルはノアとユウとでゲームをしていた。 細かくは覚えていないが、友達同士で対戦できるゲームだ。 あの時はノアが勝っていて、連敗していたユウがリアルファイトに持ち込もうとしたのを、シェリルが止めていた覚えがある。 「そういえば、まだ決着がついてなかったわね……」 「今ならシェリルさんもいませんから。ここであったが百年目です」 ノアがどこからか槍を取り出した。 天使の持つ武器、らしい。 それこそ、ゲームや漫画に出てくるような、実用性の無いデザインの槍だ。 ユウはというと、魔力というエネルギーのようなもので作り出した紅い剣を構えている。 私にはどちらでもいいことが、あれは『紅い』剣であって『赤い』剣ではないらしい、決して。 そういえば、ノアに言わせれば私の武器にはピコピコハンマーがお似合いらしい。 だから、そのおもちゃの槌でやつの頭に浮かんだ天使の輪を遠くまで吹っ飛ばしたときは、本当にすっきりした。 「って、待て待てここで戦うな! 銃刀法違反だてめーら!」 「「天使(吸血鬼)には人間の法律は適用されません!」」 「声をそろえて言うなっ!」 なんとか二人を止めることができたので、胸をなでおろした。 とめなくては二人とも警察にご厄介だっただろう。 そんなことになっては目も当てられない。 「……私たちのことはいいんだけどさ。シェリルはどうしたの?」 その言葉ではっとした私は、周囲を見回した。 シェリルの姿はない、当然一緒にいたあいつの姿も。 見失ってしまったのだった。 くだらないことを話している間に。 「まーなんとかなるよ、せっかくだから遊んで帰ろう」 「それじゃあ何のために来たのかわからないじゃない!」 ユウが暢気な笑顔で言った。 「ほら、人形さん。シネマ69で『女の子同士のイケナイ関係〜メイド編』上映してますよ。これ、前から見たかったんです」 「私はこっちの『ライブラリーアローン』がいいな。主人公の司書がおもしろいんだよね」 「あんたら何しに来たかわかってんの?」 私の問いかけに応じることなく、それぞれが思い思いに映画の広告を見て和気藹々としていた。 いや、それだけならまだいい、問題は成人指定の映画のほうだ。 そのチケットを、どう見ても中学生ぐらいでしかないノアが堂々と購入しようとしているのだから、売り場の人間も困り果ててしまっている。 ノアはしぶしぶ諦めたようだ。 「映画なんで見てないで、早くシェリルを探す! あんたたちも手伝いなさい!」 「はいはい」 「へーい」 気の抜けた返事に腹が立つ。 ユウはさておき、ノアの顔に右ストレートを打ち込んでやりたい衝動を抑えつつ、私はあの二人を探すことにした。 建物ぐらいの高さを浮遊して効率よく人を探すことができるのは、幽霊ならではの特権だと思う。 座り込んだ街灯から見た地上には、人間が歩いているのが見えた。 イヤホンで音楽を聴いている人間、携帯を使っている人間、サラリーマンや女子高生や子供、とにかく大勢の人間が眼下でせわしなく動いている。 その中の一人が頭を下げているのが見えた、電柱を相手に、だ。 ……気づいていないのだろうか? その人は、ずれた眼鏡をかけなおして、まじまじとそれを見たあと、そそくさと歩いていってしまった。 ちゃんと前を向いていればそんな目にあわなくて済むというのに、とんだ間抜けだ。 しかし、よく観察してみれば、誰もが下を向いて自分の道だけを歩んでいる。 私と目が合った人間は一人もいない。 目が合ったところで私のことが見えるとは思わないが。 あの人間はどこにいくのだろう。 そう考えながら、私は行き交う群集を眺めていた。 その中に、シェリルの姿はない。 金髪で黒いリボンで、ヒラヒラの服を着た親友はどこにもいなかった。 そうして半時あまりが過ぎた。 すでに日が傾いていて、空は夕焼けの赤と大気の青を混ぜあわせた切ない色に染まっている。 そのことにようやく気がついたのは、ふと上を向いたそのときだった。 そろそろ、ノアかユウのどちらかがシェリルを見つけたころだろうか。 それとも、もう帰ってしまっただろうか。 結局、シェリルを見つけられないまま帰るしかなかった。 淡い満月の光を浴びて、私は黄昏の空を飛んだ。 家に帰ったら、シェリルが出迎えてくれると信じて。 ---------------------------------------------------------------------------- 結論から言おう。 出迎えたのは、シェリルではなく、あの憎き天使だった。 「やっと帰ってきたんですか、人形さん。こっちは人形さんに待たされた時間のほうが無駄でしたよ。これだから人形さんは人形なんです。人形」 「てめえ今何回人形て言った!? ちょっと表出ろ!」 いきなり馬鹿にされたので、売り言葉に買い言葉だ。 すかさず私たちは殴り合いの喧嘩へと発展するが、いつものことだ。 髪を引っ張られれば引っかきで返し、私のカチューシャを盗られればノアの天使の輪を投げ飛ばす。 そこで止めに入ってきたのは、シェリルだった。 「け、喧嘩禁止ー!」 「シェリル!? あんた、帰ってたの!?」 「うん、ずいぶん前に帰ってたよ?」 どうやら、私が街で探していたころには、すでに家に戻っていたらしい。 私の過ごしたあの時間はいったいなんだったんだろう。 「だから言ったじゃないですか、無駄だったって」 「で、でも、あんたたち遊んでたじゃないの! それでさっき探し回った時間だって……!」 「私たちは途中で探すのをやめたんだけどね。先に帰ってると思ったから」 と言ったのはユウだった。 返す言葉がない。 無駄な時間をかけて探していたのは私だけだったと思うと、やり場のない悔しさが心の中でせめぎ合う。 「まあ、まあ、みーちゃん。それより、ちょっとこっち来て?」 「何なのよ……。私は今そんな気分じゃない……」 「いいから、いいから。ノアちゃんもユウちゃんも来て」 「なに? 血、吸わせてくれるのー?」 「ち、違うよ!」 「まさか4人で……、いやいやシェリルさんそれはいくらなんでも卑猥すぎます!」 「……何のこと?」 「あんたは黙ってなさい!」 ノアがまたとんでもないことを言い出したので、すぐさまフライパンで向うずねを叩いた。 ノアはうずくまって足を押さえているが、私の知ったことではない。 「みんな、ちょっと待っててね」 シェリルが奥の部屋に行ってしまった。 その間に私たちは仕切りなおすついでに座って待つ。 するとすぐにシェリルが戻ってきた。 両腕にたくさんの花束を抱えて。 「いつもありがとう! ノアちゃん、ユウちゃん! それに、みーちゃん!」 シェリルはそういって、順番に花束を手渡していった。 最後に、私がもらった花束は他の二人に比べていっそう大きかった。 私一人ではとても持ちきれない。 そして、色とりどりの花からは甘い香りがする。 「こ、これって…………?」 「みーちゃんには特別大きいのを買ったんだよ! いつも勉強を教えてくれたり、美味しい料理作ってくれたり、本当にありがとう!」 そう言われて、私は黙ってしまった。 顔が熱い。 今、私の顔は湯気が昇るほど真っ赤になっているはずだ。 「こんなにたくさんの花束、どうしたの?」 代わりにユウが聞いた。 「お花屋さんで買ってきたんだよ。でも、私の姿は店員さんには見えないから……」 「だから、あの人と一緒に出かけたんだ」 「な、なんで教えてくれなかったのよ……。何も言わずに出かけることないじゃない」 私はしどろもどろになって言った。 「みんなを驚かそうと思ってたから、お、教えちゃったら意味ないよー……」 要するに、シェリルは私たちに花束をプレゼントしたかったらしい。 しかし、一人では買えないので、あいつと一緒に出かけたという。 黙って行ってしまったのは驚かしたかったからだった。 たったそれだけで、私が心配していたこととは何の関係もなかったのだった。 それに気がついたとき、急に力が抜けてきた。 「わわっ、みーちゃん! 大丈夫!?」 「あんた、人がどれだけ心配したと思って……。もう、知らない。嫌い」 つい、冷たく言ってしまった。 なぜか視界がぼやけてきて、シェリルがくれた花束が霞んでしか見えなかった。 「みーちゃん、ごめん……」 「大丈夫ですよ、シェリルさん。本当に嫌われたわけじゃないですから」 「そうなの……?」 私は黙ってうなずく。 するとシェリルは満面の笑みを浮かべた。 とにかく、今日も丸く収まったのでよしとする。 それから、今度会ったらあいつにもお礼を言っておかないと。 「ねー、シェリル。花束は返すから代わりに血を吸わせて?」 「え、や、やだー!」 シェリルが慌てて飛び出すと、ユウはそれを追っていった。 邪魔者がいなくなったと思ったのか、ノアが言った。 「人形さん、花束を交換しませんか。私のほうが小さいなんて不平等です」 「誰がするか! あと人形って言うなと何回言えば!」 「ほら、そんなに小さいと持てないでしょう? だから、それは私がもらってあげます」 「ふざけんな! あんたにはそれで十分だわ」 落ち着いたとたんにノアが喧嘩を売ってきた。 相変わらず、私を小ばかにするような目つきが腹立たしい。 もちろん、私がこの挑発に乗らない手はなかった。